「後工程の受託大手が新工場」「OSATの受注が回復」

半導体のニュースで「ファウンドリ」という言葉に慣れてきたころ、今度は「OSAT(オーサット)」という見慣れない略語が出てきました。前工程の受託がファウンドリなら、これは何の受託なのか。文系で経理ひとすじ、ご縁があって半導体メーカーで働くようになった私が、社内の会話で最初に聞き返した言葉のひとつです。

この記事では、OSATが何をする会社なのか、なぜ後工程を外に任せる仕組みが生まれたのか、そしてなぜ最近になって後工程の会社が注目されるようになったのかを、会社の分業を扱った記事の続きとして、分業の構造とお金の流れの側から整理します。

結論:OSATとは、半導体の「後工程」を専門に引き受ける会社のこと

はじめに結論を1文で置きます。OSATとは、回路が描き終わったウエハーを受け取り、切り分けて包んで検査するまでの「後工程」を、他社の代わりに引き受ける専門会社のことです。

英語の頭文字を並べた略語で、日本語では「後工程受託会社」や「組立・テストの受託会社」と訳されます。前工程・後工程の記事で「焼けた生地を切り分けて袋に詰める」とたとえた作業を、専門にやっている会社だと思ってください。

分業の地図に、もう1種類の会社を書き足す

ファウンドリの記事で、半導体の会社を「設計だけ(ファブレス)」「製造だけ(ファウンドリ)」「両方(IDM)」の3つに分けました。この地図は前工程を中心に描いたものです。後工程まで含めると、もう1種類の会社が必要になります。

会社の種類 設計 前工程(回路を描く) 後工程(切る・包む・検査)
ファブレスするしないしない
ファウンドリしないする一部する会社もある
OSATしないしないする
IDMするするする(一部を外に出すことも)

ファブレスの会社が設計したチップは、ファウンドリで回路を描かれ、そのウエハーがOSATに運ばれて製品の形になり、ファブレスの会社の名前で出荷されます。設計・前工程・後工程を、それぞれ別の会社が担う三段の分業。これが今の半導体づくりの標準的な形です。

なぜ後工程を外に出すのか:たとえ話で

「自分で作った方が安いのでは」と最初は思いました。ここは経理の目で見ると分かりやすい構造です。

たとえ話:焼き菓子工房と、包装専門の会社

小さな焼き菓子工房が、贈答用の箱詰めまで自分でやるとします。箱を仕入れ、包装機を買い、繁忙期には人を増やす。ところが注文は季節で大きく波打つので、閑散期には包装機も人も遊んでしまいます。

そこで、何十軒もの工房から箱詰めだけを引き受ける専門会社が現れる。専門会社は年中いろいろな工房の仕事を受けるので、機械も人も遊ばない。工房は箱詰めの設備を持たずに済み、注文が増えた月だけ専門会社に多く頼めばいい。

OSATはこの「包装専門の会社」です。需要の波を、たくさんの顧客をまとめて受けることで平らにし、設備の稼働率を上げる。これが後工程を外に出す最大の理由です。

後工程は「人手と場所」の商売だった

もうひとつの理由は、後工程が長いあいだ「前工程ほど高度な装置を必要とせず、人手と場所がかかる工程」だったことです。前工程は露光装置のような1台数百億円の装置が要りますが、後工程は比較的安い装置と多くの作業者で回せました。だから、人件費の安い地域に集まりやすく、そこで専門会社が育ちました。OSATの多くがアジアに拠点を持つのは、この歴史によります。

OSATの仕事を3つに分ける

後工程と一口に言っても、中身は3つの段階に分かれます。

  • 切る(ダイシング):回路が描かれたウエハーを、チップ1個ずつに切り分ける
  • 包む(パッケージング):切り出したチップを基板に載せ、配線をつなぎ、樹脂などで包んで製品の形にする
  • 検査(テスト):完成した製品が設計どおりに動くかを1個ずつ確かめ、不良品を除く

このうち「包む」の部分が、近年いちばん技術的に変わってきている場所です。次で説明します。

なぜ最近、後工程が注目されるのか

ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。長らく「前工程より地味」と見られていた後工程が、ここ数年で急に脚光を浴びるようになりました。理由は「包み方」にあります。

回路を細くするだけでは、性能が伸びにくくなった

ムーアの法則の記事で書いたとおり、半導体はこれまで「回路を細くして詰め込む」ことで性能を上げてきました。ところが細くするほど難しく、コストも跳ね上がります。そこで出てきたのが、「1枚の大きなチップを作る代わりに、小さなチップを複数作って、1つのパッケージの中で組み合わせる」という発想です。

たとえ話:一枚の巨大な板より、板を組み合わせた家具

大きな一枚板の机を作ろうとすると、傷ひとつで板全体が使えなくなります。小さな板を組み合わせて机にすれば、1枚に傷があってもその1枚だけ替えればいい。しかも、天板は硬い木、脚は軽い木、と用途に合わせて材料を選べます。

半導体でも、計算をする部分、記憶する部分、通信する部分を別々の小さなチップとして作り、それらを1つの包みの中で密に接続する。この「組み合わせて包む」技術が、性能を伸ばす新しい道になりました。そしてその「包む」を担うのが後工程であり、OSATの領域です。

「包む」が高度になると、お金の流れも変わる

包み方が高度になると、後工程にも高額な装置と技術が必要になります。かつての「人手と場所の商売」から、「技術と装置の商売」へ変わりつつある。この変化で、OSATの投資額は増え、前工程を担うファウンドリが自ら高度な後工程を手がける動きも出てきました。後工程をめぐる会社の顔ぶれと役割分担が、いま動いている最中です。

お金の流れで見るOSAT

このサイトの読者向けに、OSATをお金の流れで整理します。

  • 売上は「加工賃」:ウエハーはファブレスなどの顧客のもので、OSATは加工の対価を受け取る。材料を売る商売ではなく、手間と技術を売る商売
  • 稼働率が利益を決める:設備と人を抱えるので、仕事が途切れると赤字になりやすい。多くの顧客から仕事を集めて平らにするのが基本戦略
  • サイクルの影響は受けるが、前工程より軽いシリコンサイクルの記事で書いた波は後工程にも来る。ただし装置の単価が前工程より低い分、投資の反動は小さめ
  • 高度な包み方への投資が増えている:技術の商売に変わるにつれ、装置投資と研究開発費が膨らむ。ここが今後の分かれ目

経理の目で見ると、OSATは「加工賃で稼ぐ、稼働率の商売」です。製品を持たないので、値段の決定権は強くありません。その代わり、多くの顧客を持つことで需要の波を吸収してきた。この構造が、高度な包み方の時代にどう変わるかが、業界の見どころになっています。

後工程でも、日本の装置・材料は存在感がある

「後工程の会社はアジアに多い」と書きましたが、後工程で使う道具の話になると、また顔ぶれが変わります。ウエハーを切る装置、チップを基板に載せる装置、完成品を検査する装置、そして包むための樹脂や基板。こうした後工程向けの装置・材料では、日本企業が主要な供給元として名前の挙がる分野が多くあります。材料メーカーの記事で書いた「一度採用されると変えにくい」構造は、後工程の道具にもそのまま当てはまる話でした。

つまり、後工程の「作業」を担うOSATと、後工程の「道具」を供給する装置・材料メーカーは別の層にいて、ニュースで「後工程」と出たときに、どちらの層の話かを分けて読む必要があります。

文系がOSATを見るときの視点

企業研究や転職の視点で見ると、OSATは次の特徴を持っています。

  • 顧客が多く、取引先との調整が仕事の中心になる:多数の顧客から仕事を受ける商売なので、営業・生産管理・購買のような調整役の職種が多い
  • 海外拠点が前提:拠点がアジアに広がっているため、海外との実務経験が活きやすい
  • 稼働率の管理が経営の要:経理の目で見ると、設備の稼働と人員の配置を数字で追う仕事が重要で、管理部門の出番が多い

企業研究のときは、その会社が「従来の包み方」中心か「高度な包み方」に投資しているか、主要顧客がどの層の会社か、拠点がどこにあるか、の3点を押さえると、会社ごとの違いが見えてきます。

ニュースの見出しを、この記事で読み直す

  • 「OSATの受注が回復」→ 最終製品の需要が戻り、ファブレスなどの顧客が後工程の注文を増やしている。前工程の稼働と近い動き
  • 「後工程の新工場」→ 高度な包み方への投資か、人件費や地政学を考えた拠点の分散か。どちらかを記事の中で確かめる
  • 「ファウンドリが後工程を強化」→ 前工程の会社が「包む」領域に入ってきた動き。OSATとの役割分担が変わるサイン
  • 「先端パッケージの供給不足」→ 回路を細くする以外の性能向上の道に需要が集中し、後工程がボトルネックになっている状態

用語の整理

  • OSAT … 組立と検査を受託する後工程の専門企業
  • ダイシング … ウエハーをチップ1個ずつに切り分ける作業
  • パッケージング … チップを基板に載せ、配線し、包んで製品の形にする作業
  • テスト … 完成品が設計どおりに動くか1個ずつ確かめる作業
  • 先端パッケージ … 小さなチップ同士を近距離でつなぎ、ひとつの部品にまとめる新しい包み方の総称

まとめ

  • OSATは、切る・包む・検査する「後工程」を受託して担う専門企業
  • 設計・前工程・後工程を別々の会社が担う三段の分業が、今の半導体づくりの標準
  • 後工程を外に出す理由は、多くの顧客をまとめて受けて設備の稼働率を上げるため
  • かつては人手と場所の商売だったが、「組み合わせて包む」技術で高度化している
  • 微細化に頼らずに性能を上げる手段として包み方が注目され、後工程の存在感が上がった
  • OSATの売上は加工賃。稼働率が利益を決め、値段の決定権は強くない
  • ファウンドリが後工程に入ってくるなど、役割分担がいま動いている

「後工程は地味」という印象は、私が業界に入ったころにはすでに古くなっていました。回路を細くする競争が難しくなるほど、包み方の競争が前に出てくる。地図でいえば、これまで端に小さく描かれていた「後工程」の箱が、真ん中に向かって大きくなっている最中です。次にOSATの名前を見出しで見かけたら、その箱がまた少し大きくなった、と読んでみてください。

会社の分業の全体像は ファウンドリ・ファブレス・IDMとは で、製造の流れは 半導体ができるまで|前工程・後工程の違い で整理しています。この記事の「三段の分業」と合わせると、ニュースに出てくる会社がどの段の話かを仕分けられます。